#183 ANSNAM denim 「臨」

Nov 16, 2020

あれからどれだけの月日が、そして涙が、流れただろう。

生地を織り上げ、サンプルまで作ったにも関わらず、発表中止でやり直し。

思い出すだけで、胃がキュンと締め付けられる。


けれどあまりヘコんでいられる余裕もなく、

そしてそもそも立ち直りが早い。(仕事の立ち直りはね。でもプライベートは、、、ぴえん)

気を取り直して、糸作りから再スタート。

もうね、現地の工場さんに入って、紡糸の調整から見せてもらったわよ。

そもそもこのガラ紡という糸は、手紡糸よりも調整が難しい。

前にも書いたかもしれないけれど、ガラ紡績機は機械というよりも、カラクリの部類に入る。

きっと、精密という言葉が生まれる前に、作られたんだろう。

このカラクリマシーンを発明した人の名は、臥雲辰致。がうんたっち。

響きがもうね、胡散臭い(笑)

この器械、19世紀後半頃は人気だったみたいだけど、その後ガンガン減っていき、

日本で、世界で、現存するのは数台。そのうち、博物館にいるのが一台。

ファーストロットで紡いでくれた職人さんは数年前に亡くなった。

そして唯一、まともに稼働している工場さんが尾張一宮にある。

これがもう、最高に燃えた。

その器械の仕組みはなかなかに単純。

もちろん動力は電気なんだけれども、(昔は水車だったらしい)

この紡績に必要なものがもう一つ。それは自然のエネルギー。

太陽光でもなく、風力でもなく、地熱でもない。それは、

重力。グラヴィティー。

この筒が登っては落ちる、登っては落ちるを繰り返してるの。芥川の蜘蛛の糸の如くに。

そして糸の番手(細さ)を調整するのは、この重り。

これをどの位置に下げるかで、紡ぐ糸の細さが変わっていく。そこに目盛りは、ない。

そりゃ糸番手を教えてって聞いても濁されるわけで。

だってこれだよ?

まさかの目視(笑)

しかしながらのだからこそで、不規則でエッジィの効いた糸が生まれるのだと思う。

この時々のガツンと入るダマが良い。

この独特の風合いが素晴らしい。

続く