#96 Sebastian Tarek Shoemaker Trunk Show

Jan 11, 2018

セバスチャン=タレク。
ロンドン、イーストエンド。かつて切り裂きジャックが歩き回り、荒れ果てていたひと昔とは違い、今ではアートが盛んだったり、人気のクラブやらショップやらが立ち並び、意識高い系のおしゃれな若者たちで賑わいを見せている地区。そこから少し離れた静かな住宅地の中に、1899年に建てられた、鍛冶屋や室内装飾品などあらゆる職人たちが、コミューンのように軒を連ねたという建物がある。そこでは今も昔と同じように、若い職人たちが集まり、製作活動をしているというから面白い。
そしてその建物の一室に、セバスチャン=タレクの工房がある。
彼を知ったのは、アイルランドで会った手織り職人さんがくれた小さなチラシ。なんともなく、それを見て、そこに小さく、彼が載ってて、白黒写真の横に添えられた一文は確か、"handmade, bespoke shoes, East end of London" 。以上。
ググったらすぐホームページが出てきたものの、無愛想なそれにはあまり情報が、ない。さらにググったらその靴は、いわゆるビスポーク英国靴とはまるで違う、そして、セレクトショップに並でいる既製品とも違う、見るからに丁寧な作りだが、粗野でもあり、なんというか質量のある、佇まいが不思議な靴だった。早速コンタクトを取り、会う約束をする。(その後、北アイルランドからバスでダブリンに行き、一泊。翌日早朝、フェリーに乗船しイギリスへ。列車に乗って北ウェールズを通り、やっとの事でロンドンに到着する。という大冒険譚があるのだが、ここでは割愛する、せざるをえまい、話が長くなるだけだもん)
そして、イーストエンドへ来た。
呼び鈴を押すが、出ない。そんな気がしたよ、この建物。しばらく待ってみたが、出ない。やはり鳴ってない。セバスチャンのアトリエであろう窓から人影がモゾモゾ動いているのが透けて見える。窓を叩く。人影は立ち上がり、小走りで入り口に向かう。開ける時にコツが要りそうな扉が開き、ついに彼と対面を果たした。
いい、男である。彼自身が彼の作品を作っているという、それが如実に伝わる。当たり前で馬鹿なことを言っているようだけれど、今の時分、果たしてそんな物作りをしている人間がどれだけ残っているのか。その職人の手汗や、体臭さえもが染み込むようなそんな物作りだ(クサいのは嫌か笑)。そもそも、靴作りに於いて、その製作過程を分業で行うのは当然のこと。しかし彼は、すべての工程を、彼自身、一人で行う。テーラードで言うと、丸縫いって言うやつだこれ。
ストイックに、ただただひたすらに、自分の追い求める靴を作り続ける。
と思ったが、それだけが彼の素晴らしさではなかった。
その巨軀は、長いあご髭を持ち、靴墨で汚れたゴツい手。けどそこに、つぶらな瞳がキラキラしてて。偏屈で強情っぱりな職人気質じゃなくて、ユーモアのあるナイスなお人柄。
聞けば自分のブランドと並行して、ジャーミンストリートの老舗ビスポークの外注製作も行っている。つまり、セバスチャンはクラシックな英国靴の職人としても一流だったし、ちゃんと社会人として立派だった、コミュ力高め。その錚々たる靴屋の名前を聞いてもビックリだったが、同時に、最初に写真で見た第一印象にも納得が入った。
彼の作る靴は、ただデザインでオリジナルなのでなく、その伝統の技術に裏打ちされた土台の上にだからこそ、成立する。質量の正体はここにあるのだと思う。
実はさ、その時、一足、オーダーしちゃったわけ。来季の買い付けの予算とか、未定だったのに。けど正解。大正解。
初めてのビスポークシューズ。ものすごく楽しかった。興奮がすごいのを、ひた隠しにしようとするもダダ漏れちゃって。お腹以外は全身JIS規格、と思っていたけど、足は少し違うみたい。甲が少し高いので、それに合わせてバランスを整え、スタイルを作る。でね、さらにそのスタイルは、その人の雰囲気を見て、決めたいんだって。デザインも含めて。だから見るのは足だけではなく、全部。そこから発想が始まると。だから、今回のトランクショーも、サンプルとして6足展示するけど、それらはあくまで参考。一緒に話をしながら、採寸しながら、生地を選びながら、作っていく。そう、つまりここアンスナムシダーのやり方と一緒。
彼と話してて思った。物作りの考え方とか追求の仕方も、僕ととてもよく似てる。そして、採寸してる時に見ちゃったんだけど、手にメモを書くクセも似てる。
けれど彼は、いろいろ忘れたり、オーダーシートをなくしたり、そんな事はしない。

Sebastian Tarek  Shoemaker   Trunk Show
1月20日(土曜)、21日(日曜)

詳細は追ってまた後日。