寡黙な男がコートを羽織り、カフェを出て、通りを歩く。
その背中は雄弁に、
しかしまるで大陸をぬって流れる大河のごとく、ゆったりと豊かに、
その男自身の人生を、その生き様を、語り始める。
冬のグレーの寒空には、こんな映画のワンシーンが心に浮かぶ。
ロングコートは私たちをスクリーンの世界に連れて行ってくれる。
イメージしたのは
「ベルリン 天使の詩」のカシエル(オットー・ザンダー)と、
「レオン」と、「第三の男」。
あと、映画じゃないけれど、ピナ・バウシュの「カフェ ミュラー」。
たっぷりとゆとりを取った寸法で、外套ながら軽やかに。
仕立ては重くなりすぎないよう、かつ浮わつかないよう、十分に気を遣う。
クラシックな仕立てならば、いかようにもできるが、
その匙加減は、なかなかに難しい。
付属資材の選定と、テーラーの仕立て職人さんとの微細なニュアンスのすり合わせ、
試行錯誤と、思考の錯乱。
メンズデザインゆえの、楽しさと苦しみがここに詰まっていると言っていい。
何度もやり直して、辿り着いたその先にある、
それがこのシンプルで大胆、そして複雑で綿密なチェスターコート。
素材についての詳細なストーリーはまた後日に書きたいものだが、どうだろう。
まぁ、とりあえず。
写真のものは、イタリアのヴェネト州で手織りされた、
ファインウールのダブルフェイス生地。
柔らかくて暖かく、ふくらみがあるのに、ドレープがエレガントに流れる。
そのほかにも、同じ工場さんで織り上げた手織りツイードもある。
サイズ感ですが、こればかりは皆さんそれぞれのバランスや好みがあると思います。
今期のおすすめはこのサンプルのバランスですが、
もちろんいつものように、お一人お一人に合わせて、一緒に話しながら、
オーダーメイドで寸法を取り、形を作っていきます。
背肩幅、着丈、身幅、ラペルの大きさ、ポケット位置、肩傾斜など。
全てにおいてメジャーメントしますし、
大幅な変更は、シーチングによる仮縫いもご用意するので、ご心配なく。
アンスナム チェスターコート
¥258,500- (税込)