#48 その先へ

Aug 16, 2017

ヂーケンのバーチー、ただいま夏休みに入っております。
今まで12年くらいもの間、僕一人でやっていたのに、今ふと独りになると、
保安官でいっぱいだ。あ、いや、不安感でいっぱいだ。
あと二日。木金を乗り越えればバーチーが帰ってくる。ああ、きっと、僕は耐えてみせる。


以前少し紹介した、彼のプライベートコレクションであるヴィンテージの生地。その中から先日、リクエストを頂き、製作しました。スキャバルのウールカシミアでシャツ。

ダ=ヴィンチだったか、ミケランジェロだったか、デ=アゴスティーニだったかが、「すでに石の塊から、彫刻の形は見えている。私はそれを取り出すだけだ」的なことを言っていた。ような気がする。
今回のこの生地、私にもその形が見えていた。つまりはそう、天才の域。
そこから大まかに、お客さんと一緒にボディバランスを考え、ディテールを決めて、上階のアトリエで製作。

上質な素材ほど、縫製が難しいことが多い。ピリついたり、フワついたり、ラジばんだりー。しかも今回は、super100'sのウールカシミア、しかも平織り梳毛、春夏素材。スーツ地。これ意外と、難しいの、スーツ地でスーツじゃない別のアイテム作るって難しいの。バランスが破綻すると、一気に堕ちる。

着物地で洋服作るのと似てるかも。吉祥寺のさ、お茶屋さんの斜向かい、わかる?そうあのレンガの建物に入ってそうな、和風ブティックに並んでそうなあの感じ。着物に仕立つならいいんだけど、洋服になると伊予柑がある、あ、いや、違和感がある。あれと近い。

だから、縫製仕様の一つをとっても予断を許さない、下手をするとその素材の良さが消え、ただただそこに重さを残すことになる。
線を一本縫うそれだけで、僕たちは話し合いを繰り返し、最良の道をかき分け探る。

結果、ヨークとフラップの裏にはカルロリーバのシャツ地。
芯なし。
前立て2つ折りの耳使用で、その中は補強用のコットンテープふらし。
縫い代処理は全て折り伏せ手まつり。
手縫うというのは、まるで宙でパーツを繋いでいる感覚に近い(というか実際に宙だし)。だから軽く仕立つ。ミシンのそれは、盤に置いて、押して抑えて接ぐ。だから頑丈ではあると当時に、重い。

完成し、水にさらして乾かすと、繊維がふくれ、ハンドステッチ箇所に微かな凹凸を浮かばせる。軽さが、増す。

こうして出来上がったシャツは、私のイメージをも凌駕し、まだ見たことがない、「その先」のモノになっていた。つまりはそう、天才の域を越えたってこと。ミケランジェロ越えたってこと。
 スキャバルとカルロリーバ、アンスナムの狂宴のトリプルネーム。

そんなジェロ越えを果たした私は今、チーバくんのいない店に、独り佇む。
だから、YouTubeでカラオケの練習をする。いつなんどき、突然マイクを渡されるかわからない。そんなご時世。常に準備は怠るべからず。
腹式を意識し、声の伸びを感じる。喉の奥を開き、声帯を心地よく震わせる。松浦先生、お元気ですか?

熱唱。熱唱甲子園。
星野源、セカオワ、buck numberなど、最近の歌も習得したけれど、秦基博や平井堅はさすがに無理が過ぎた。

喉が、枯れた。

そんな夏。