中込さんは現在、某メンズブランドのチーフデザイナーとして活躍されています。
その傍らで立ち上げられたブランド、コヒーレンス。なのにこの、横暴さたるや快活。
彼はその本業の中で、日本を代表する様々な生地メーカーと協業しています。
開発にも携わっており、近年話題になった、T社のマイクロファイバー高密度素材も、彼が一枚噛んでいるそう。しかしながら、実は彼、あの素材に納得が入っておらず、その後も独自の開発を続けていました。
そして生まれたのが、今回の生地。極細糸を使用し、超ハイゲージに編み込み(この生地、実は織物ではなく、ニットジャージー素材)、そこから加工し更に追い詰まらせる。ハリとコシの肉感。それらを残し、且つしなやかに。
もう一つはウールのシリーズ。素材表記は、wool 97%, nylon 3%。
が、この生地、紡績した糸も作り込んでおり、さらなる内訳を聞くと、ウールの原料を4種類ブレンドしてました。
柔らかい質感のシェットランドウール
カシミアに匹敵する長繊維のタスマニアメリノ
南米原産、バルキー感があるアップランドウール
イングランド地方の、 毛足が長くて光沢があるブルーフェイスレスター
つまり、色々な特徴を持つウール原料を絶妙に配合することで、それぞれの良さを生かした、オリジナル。コヒーレンスの、独特の質感を作り出しています。
この素材も前者と同様、ニットジャージー。
ここまで素材を独自で作り込める環境に身を置きながら、彼の作ったブランドの、アイテムはコートのみ。
勿体のない事だと思いましたが、彼の話を聞いて納得しました。
このコヒーレンス、完全に彼の生き方そのもので、哲学であり、憧憬であり、ロマンであり、そして、今まで積み重ねてきた体験の集大でありながら、それさえも凌駕し、昇華するように自らを笑い飛ばす。軽快な遊びと言っていい。
片眼鏡(モノクル)のトリスタン・ツァラ、ル・コルビジェ、アルベール・カミュ、ジャン・コクトー、レオナール・フジタ、ヌーベルバーグにフィルムノワール等、彼を成形させた芸術家、哲学者、作家、映画、音楽などが、コレクションのソースになっており、それらはアイテムの中に、アイディアピースとしていくつも散りばめられています。茶道や香道のように、暗号的で、秘密裏に。
ここのコートは、少しゆとり分量の多い型紙です。ビンテージの重衣料を、想起して頂くと分かりやすいかと。なので、タイドアップしたスーツの正装によく似合います。ジャケットの上に羽織っても、計算された肩線と鎌底で、苦しさは皆無です。もちろん、現代にブラッシュアップされた型紙ですので、野暮さもありません。すでに海外の錚々たるサルトリアルショップで取り扱われているのも頷けます。
風をはらんで、ドライブコートのように乱雑に、砂埃など気にせずに。襟裏の汗染み、袖口のほつれや汚れ。肘中の取れない皺と、裾の擦れ。一生モノを大切に扱わず、一生着れないくらい着倒してみては。
突然炎のごとく、気狂いピエロは、勝手にしやがればいい。
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