インド出張 ① 旅立ちの朝

Jan 21, 2026

さて、こうしてまた旅に出ている。

地球のどこかではパリコレなるものをやっているそうだが、全く関係がない。

ちなむと、服の話はひとつも出てこないので、これを読まなくてもあなたのファッションライフには何の支障もないことを約束します。


思い返せば、それは幼稚園のお芋掘りの時からだ。

何某かイベントの前夜はドキドキしてなかなか眠れない。さらに途中、寝過ごしてやしないかと何度も目を覚ます。(なのに今朝はそのアラームをかけ忘れてたりするから、本当、自分の管理能力の無さにマジで失望する5秒前)


今回は、朝の通勤ラッシュにモロ被りの時間帯だったため、タクシーに乗らせてもらった。日常のパターンの中に異質なモノが入り込むストレスはハンパないでしょう。しかもそれが、スーツケースにバックパックを背負った人間が、満員電車に紛れ込むのだ。発狂するに相違ない、だからタクシー。寝坊した30分を取り戻すためとも言うけど。


なんとか間に合いそうだと、安堵の気持ちとともに、タクシーは首都高を走る。車窓から臨む東京タワー。この景色を見ると、オカンは元気でやっているだろうか、とふと郷愁に駆られるが、うちのオカンと東京タワーに、僕はなんの思い出もないから不思議だ。


そうこうするうちに、走行するうちに、タクシーは湾岸をゆく。

時は遡ること、僕が専門学校一年生。この免許取りたて新人ドライバーは無謀にも、彼女を助手席に乗せ、大黒埠頭〜ベイブリッジ〜山下公園〜レインボーブリッジ〜お台場という、これでもかと詰め込んだフルコーストレンディードライブデートを敢行。

お台場でのもんじゃ焼きディナーのあと、大変だろうから電車で帰る、と優しさを見せてくれた彼女の気持ちを無視しし、春日部の自宅まで無理やり送り届けるというセルフィッシュ=デビル=エロヤスシ。23時を過ぎ、着く頃には彼女は車酔い。F.D.E.ヤスシは着く直前に車を電柱にぶつけるという失態。それは地獄。

そんなことを思い出していたら、あっという間に25年の月日は流れ、僕は何の成長もせず何も変わらずにいて、気づくとタクシーは羽田に着いていた。


搭乗までの間は、もう慣れたものだ。残り2時間。ここにきて急に残してきた仕事を思い出しては、電話とメールの嵐。ハタから見た僕はきっと、海外リゾートに遊びに行く、カジュアルな格好をしながらもバリバリ仕事出来る若き経営者。素足に白スニーカーを履いてくるべきだった。

だけどその仕事の電話の内容は、やれ、あれの発注忘れた、とか、あれを持ってくるの忘れた、とか。ただのおっちょこちょいダメ男のそれである。

タクシーのなかで思い出に耽っている場合ではなかったんだよ、僕は。


そんなこんなで、やっと搭乗である。今回はエアインディア。出発ゲートをくぐり、搭乗した瞬間からそこはインド。

突如として雰囲気が一変する。治外法権の結界術が発動され、気づいた時にはすでに、私はその領域展開の中に。

様々なトラップが襲い掛かっては、私は試される。息つく暇さえ与えられない。

私の席の荷棚はすでにCAさんが占拠していたし、テーブルを出そうとしたけど、なんかもう絶対コバエがそこで産卵してそうだし(もちろんいなかったけど)、出発直後なのにもうトイレが臭かったり。そう、ここはもう、インドなのだ。


しかしながらのハウエバー、とはいえ私もインド上級呪術師の端くれ、最初は動揺したものの、すぐにペースを取り戻した。機内食の爆うまチキンカレーと激うまほうれん草カレーは、一瞬で平らげられ、チャイを啜りながらのくつろぎタイム。

いまどの辺を飛んでるのかなぁとモニターを席の膝下から引き上げる。

(*私は飛行機上級者でもあり、非常口席を指定で取るのが常だ。ここは前に席がないため、思う存分に足は伸ばせる。モニターは膝下、先述のテーブルなどは席の肘下にある)


おー、まだこの辺かぁ、やはりちょっと遠いなぁ。あー、久々に韓国行きたいなぁ。もうしばらく行ってないなぁ。この非常口開けてパラシュートで降りたいなぁ。

てか、なんで飛行機から見る海って波が止まって見えるんだろう。そっか、飛行機が速くて相対性理論が発動されてるのか。すげーなアインシュタイ…



ガン!!



モニターが、突然落ちた。固定されたはずのモニター(多分にこの重さからしてブラウン管だ)が、その重さに耐えられず、それは私の右膝に落ちた。その痛みたるや。

声を押し殺し、耐えながらも、その呻きは漏れてしまう。痛すぎた。


なんでだよ…。


出鼻、いや、出足をくじかれたとはこの事だ。

モニターを引き上げるも、すでに彼、ブラウンに留まる意思はなく、グラングランにうなだれている。おいブラウン、元気を出せよ。

ってなんでオレがお前を励ましてんだよ。


かがみ込んで膝をさすっていると、あれ、スニーカーのソールが、剥がれてる!

どうせインドだからと、しばらく履いていなくて少し汚れてて、帰ったら捨てようと思っていたスニーカーを選んだんだ。

これからの9日間、私はアヒルのごとくに、足をペコンペコン言わせながら、インドの大地を踏み締め歩くのだ。

おいおい、前途が多難すぎるぜ、神様よぉ。

やれやれだぜ。



追記

なぜ旅が始まる前の事をこんなに書くかって?

はい、なぜなら今、飛行機の中で、本を読みたいのに読書灯が点かないからです。今回のニューデリー行きはかなり空いてて、一列三席を僕1人が独占してるんだけど、その三席全ての読書灯が点かないんです。

次回に行く時は、JALにします。

いや、てか、むしろエアインディアに感謝かも。こんなにも、一つの朝を顧みる機会なんてそうないのだから。