#52 スーツのスペック

Sep 6, 2017

以下、丸縫いスペックを羅列、ただひたすらに書きますね。写真なし。多分に意味の分からない事だらけかと。読み飛ばして頂いて結構。お店に来てもらえたら、実物を前にお持ちして、一体何が、どうしてどういう事なのか、のんびり説明しますんで。ので、秋の味覚をお待ちしてます。ウェルカムオータム。稲城梨とかシャインマスカットとかティラミスとかモンブランとか麦野くん素敵。


職人さんの工房:東大阪近辺の民家、自宅の一室で。御年たしか…63くらいかな。

縫製:上衿一枚仕立て(生地に依っては月腰あり)、殺し衿、はしご掛け手縫い、バルカポケット、手カンヌキ、前見返し手縫い、アームホール手縫い、肩線手縫い、衿付け手縫い、ふらし芯、手星止めステッチ、ボタン手付け、フル毛芯、芯据え、フラワーホール…あとまだ他に思い出したら書き足すね。フルハンドとの大きな違いといったら、ラペルや衿のハ刺しがルイスな事と、ボタンホールミシン(これもわざわざ古い機械を探して、細くてかっこいいホールにもらってるけどね)。
手縫いを多く用いる理由は、まずは一つに、かっこいい。そして二つに、動きやすくて疲れない。
型紙のバランスはこの前に書いた通り。他にあと、実は肩には少しだけ、コンケープの線入れて、それアイロンで潰してる。だから人に依っては、ほんの少し、ほんの少しだけ、肩の筋肉と骨のふくらみに沿って、線がかすかに反りのぼる。その人の個性を、シルエットに映すことが出来る。さらに、イセは多めに入っているものの、アームの上方の縫い代を割りつぶし、そこに薄めの裄綿を挟むことで、肩からのなだらかな曲線を、無理なく流し描く。とまぁ、こんな感じ。

表生地:カノニコ(創業1663年イタリアのメーカー)のsuper 110s' *135,000円の場合です。他にも色々あります。ダブルジャケットのサンプルの生地がこれ。シングルジャケットのはチェッルティでsuper 130s'。これだと上下で20万くらい。あと他にもイギリス、イタリア、フランス、そしてヴィンテージまで。で、メーカー名、やっぱりここに書くのは省略します。なんだかいっぱいあります。テーブル埋まった。けど、こんなにあるのは今週末までかも。

裏地:経糸(たていと)はキュプラ。緯糸(よこいと)はウール。この生地を開発してくれたメーカーさん曰く、近代までジャケットの裏地として使われていたアルパカの裏地をイメージしたそうだ。激暑の現代ではなかなか苦しい。けど雰囲気はよかったあの時代。そう、ひよっこの時代。それは次回として、とにかくあの風合いを、ということでこの生地が生まれた。経糸のキュプラが調和に入り、見事に着地したと言っていい。
そしてさらに、この裏地には大きな特徴がある。顧客の皆様にはいつもお伝えしているのだが、この裏地に使われているウールって原料は、実はこの現代のあらゆる高機能化学繊維素材よりも優れた、ナチュラルファンクションが秘められているわけ。ウールfrom羊さんなんだけど、それはわかるよね?数えたらダメよ、まだ寝ちゃダメ、ここまで来たら最後まで読んで。 彼らって結構寒くて、湿気の多いところに住んでるの。で、夏はやっぱり羊も暑いみたい。あの毛むくじゃらのくせにね。それをなんとかしようと、彼らの毛、キュッと細くなる。で、風通し良くするんだって。そして冬は寒いでしょう。今度は逆に、毛をフワッと膨らますんだってさ。さらに、動物だから、悪い菌の繁殖を止める抗菌効果もあるし、つまりは裏地としてこの上ないと言っていい。(ジメジメした日、通勤ラッシュでオジ様方が臭いのは、また別の話)

メジャーメント:サイズサンプルを用意してるからといって、これ、パターンオーダーとは違います。ただ、イメージを掴んでもらうために用意しているもの。袖丈と着丈の調整だけで、人それぞれの体型に合わせようなんて、ビビるわむしろ。柔らかいハンド仕立ては、体型に合わないとそれがモロに出る。そんなのアタシ、見過ごせないっ。仮縫いを強要することもあると思いますが、むしろ楽しんでもらえたらと思います(あ、お金は取ります。一万円)。他にも、ラペルデザイン、仕様変更、その他諸々、一緒に作り込みます。体型、姿勢、腰骨の位置などに依って、その人のスーツのバランスは違うの。丈や幅、ラペル、ポケット、ボタン位置。ほんの少し移動しただけで効果が出ます。あ、出るはず、多分。僕も一発でそこに行けるかわかりませんので、一緒に試行錯誤しながら、最適合を探りましょう。 だから、ちょっと時間かかります。生地選びとか、悩みだしたら止まらない。余裕もって来てください。どうしてもって時は、事前にアポイントください。

そんな感じです。というわけで、あっという間に2時を過ぎ、またしても深夜の恋文。この時間にアップして意味はあるのか。いやきっと、ない。