#10 強小物達- アイリッシュリネン手縫いハンカチーフ

Dec 3, 2016

洋服の世界は、とかく不透明で謎の表記や、その出生に至るまでのファジィなエピソードが多い。フィッシャーマンセーターの編み柄伝説の正体を知った時には、愕然としたし、ナポリ仕立てのシャツブランドの人物なぞは、存在自体も霧の中、誰も会った事がないと言う。カイザー・ソゼも蒼白だ。

そんなわけで、このアイリッシュリネン。
織ってくれた岐阜の工場の社長さん曰く、工場の蔵の隅からこの糸を見つけたそうだ。そこには、1970年代前半のHERDMANS社のラベルが。2004年に閉鎖されたアイルランド「最後の」紡績工場である。
糸は140番手単糸。当時のフラックスの品質の良さが、その光沢とフシの少ない均一性から見て取れる。この極細番手のビンテージ糸を織るのもまた困難で、最新の織機では織れなかったそうだ。失敗を重ねようやく辿り着いたのが、このリネンが紡がれたのと同じ頃に製造されたシャトル低速織機。
やっとの事で織り上げたものの、今度は縫製問題。ミシンの針に叩かれるとこの繊細な生地は悲鳴をあげた。と、いうわけで、ハンドロールドヘム。困った時は手縫い。ハンドメイドで万事解決。

フォーマルの世界では、ジャケットの胸ポケットに差すチーフはリネン、オフホワイトが正式。煌びやかな絹織の勾玉模様などではなく、むしろその真逆。僅かな光沢を持ち、生地端の手縫いロールは微かに波打つ。その繊細さを控えめに表して、厳正なスーツ姿に隙を与えてくれる。

今回の店舗オープンのお祝いにと、社長が貴重な色付きハンカチーフ2枚、特別に私へプレゼントしてくれた。大変有り難い。。。そのお気持ちだけ確と受け止め、このハンカチーフも売らせてもらう。

税込¥25,000-